決算整理は「残高を実際に合わせる」作業──勘定科目内訳明細書を1枚ずつ作れば、それがそのまま点検になる
決算整理と聞くと「難しい仕訳を切る作業」に思えますが、やっていることは1つです。
帳簿の残高を、実際の残高に合わせる。そして当期に属する損益を当期に、翌期に属する損益を翌期に振り分ける。
そして実務でいちばん効率がいいのは、勘定科目内訳明細書を1枚ずつ作っていくやり方です。「決算整理を終わらせてから内訳書を作る」のではありません。内訳書を作る作業そのものが決算整理です。得意先別の売掛金を並べれば残高が合わないところが出ますし、借入金を返済予定表と突き合わせれば長短の区分が決まります。
この記事は、その点検項目を科目ごとに並べたものです。
この記事の結論
- 決算整理=残高を実際に合わせる+期間帰属を直す。この2つだけ
- 勘定科目内訳明細書を作る作業が、そのまま残高の検証になる
- 収益は引渡しの日・役務提供の日に計上する(法法22の2)。★請求書をいつ出したかは関係ない
- 調査で最初に見られるのは期ズレ。★20日締めなら21日〜月末の売上を期末に計上する
- ★仕掛品は商品だけの話ではない。翌期の売上に対応する当期の支出は資産に残す
- ★租税公課は「いつの分か」ではなく「いつ確定したか」で入る事業年度が決まる(法基通9-5-1)
- ★仮払金・貸付金を残したまま決算を締めない。役員への支出は給与と見られる
- 期末を過ぎるとできないことがある。損金経理が要件のものは決算まで
1. 貸借対照表の点検
上から順に見ていきます。「つまずきやすい点」のほうが本題です。
| 科目 | 確かめること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 株主名簿・役員 | 株主の異動、持株数、議決権数、役員の就任・退任と任期 | ★同族会社の判定(別表二)とみなし役員の判定の基礎資料。名義株のままだと判定が変わる。発行済株式数に自己株式は含めない |
| 現金 | 期末に実査する。金種表を残す | 帳簿現金がありえない金額になっていると、社長への貸付金と見られる |
| 預金 | 銀行別・口座別に残高証明と照合。定期預金の未収利息 | 個人名義口座の混在。簿外口座は必ず問題になる |
| 売掛金 | 得意先別に残高を確認。締日以降の売上を計上する | ★20日締めなら21日〜月末の販売分。調査で最初に見られる |
| 受取手形・電子記録債権 | 期末の手持ち・割引・裏書の区分 | 割引・裏書譲渡した手形の既存債権も貸倒引当金の対象になる |
| 棚卸資産 | 実地棚卸。数量×単価。仕入先に預けてある商品、預け在庫、未着品 | 評価方法は届出がなければ最終仕入原価法。評価損は要件が厳しく、期末までに売却・廃棄してしまうほうが確実 |
| 仕掛品 | 翌期の売上に対応する当期の支出 | ★商品の棚卸と違って忘れやすい(後述) |
| 前渡金・前払費用 | 期末月に払った翌期分の費用を抜き出す | ★領収書の日付だけで損金かどうかは決まらない。期末月付けの旅行会社の領収書が翌期の出張分なら前払費用 |
| 貯蔵品 | 期末に買い込んだ切手・収入印紙・商品券 | 消耗品で貯蔵中のものは棚卸資産 |
| 仮払金・貸付金 | ★中身を必ず解消する。役員貸付けは利息を計上 | 給与等に充てるための支出はその時点の給与として源泉課税。無利息貸付けの利息相当額も原則課税 |
| 固定資産 | 現物の有無、除却・廃棄したものの落とし、遊休資産、事業供用日 | ★期末に駆け込みで買った資産の「事業の用に供した日」は否認の常連 |
| 保険積立金 | 保険会社の証明書で残高を照合。契約者・被保険者・受取人を毎年確認 | → 法人保険の損金区分 |
| 買掛金・未払金・未払費用 | 期末までに債務が確定しているものを計上 | 債務未確定のものを入れると加算される |
| 借入金 | 返済予定表と照合。長短の区分。役員借入金の残高 | 支払利息の未払計上、期間対応 |
| 預り金 | 源泉所得税・社会保険料の預り残高が納付額と合うか | 合わないときは源泉徴収漏れか納付漏れ |
| 不良債権 | 回収不能債権の洗い出し | ★期末までに事実を完成させる必要があるものがある(貸倒損失) |
★現金・仮払金・貸付金の3つは、決算整理というより「会社と社長のお金が混ざっていないか」の点検です。ここが崩れている会社は、ほかの論点をどれだけ丁寧にやっても調査で持っていかれます。
2. 損益計算書の点検
| 科目 | 確かめること |
|---|---|
| 売上高 | 収益計上時期(後述)。期ズレ。返品・値引・割戻しの処理 |
| 売上原価 | 期首棚卸+当期仕入−期末棚卸。★原価に含めた交際費・寄附金を抜き出す |
| 受取利息・受取配当金 | 源泉徴収税額の集計(別表六(一))。受取配当等の益金不算入(別表八(一))の対象か |
| 租税公課 | 損金算入のもの/不算入のもの/附帯税に区分。★別表五(二)の縦計と租税公課勘定の残高を突き合わせる(検算) |
| 交際費 | ★他科目に紛れているものを拾う。製造原価・棚卸資産・固定資産の取得価額に含めた交際費も。未払交際費も含める |
| 寄附金 | ★現実に支払ったものだけ。未払・手形は不可 |
| 役員給与 | 定期同額給与・事前確定届出給与の要件。経済的利益の有無 |
| 人件費 | 決算賞与の未払計上要件。社長の親族等(特殊関係使用人)の給与水準 |
| 地代家賃 | 前払家賃、役員から借りている物件の賃料水準、社宅の徴収額 |
| 雑収入・雑損失 | 消費税の端数、還付加算金、保険の解約返戻金、助成金 |
★交際費と寄附金は「勘定科目を見ても分からない」科目です。交際費は原価や資産に紛れ込んでいることがあり、寄附金は未払のまま計上されていることがあります。どちらも800万円の枠や損金算入限度額の計算がずれる原因になります。
3. 収益はいつ計上するか
資産の販売等に係る収益は、目的物の引渡しの日、または役務の提供の日に計上します(法法22の2①)。
★請求書をいつ出したかは、税務上まったく関係ありません。
引渡しの日として認められるのは、出荷日・船積日・相手方に着荷した日・相手方の検収日・相手方が使用収益できることとなった日などです。販売する物や契約の内容に応じて合理的な基準を選び、継続して適用するのが条件になります。「今期は検収日、来期は出荷日」はできません。
近接する日の特例もあります(同②)。委託販売やガス・水道・電気のように、公正妥当な会計処理の基準に従って引渡しの日に近接する日(契約効力発生日、検針日、仕切精算書到達日など)に収益経理した場合は、その日でかまいません。
計上する金額は、原則として引渡し時の価額(時価)です。ここに1つ、覚えておくと得な決まりがあります。
収益の額は、その代金が貸し倒れる可能性や、買い戻される可能性が「ないもの」として計算する(法法22の2⑤)。
つまり、「この取引先は危ないから売上を少なめに立てておく」はできません。回収できなくなったら、そのときに貸倒れとして落とすのが税務の順序です。
なお、返品調整引当金と長期割賦販売等の延払基準は廃止されています。経過措置も終わっているため、いま新たに使うことはできません。
4. ★調査で必ず出る期ズレの4類型
決算整理の失敗は、ほとんどがこの4つに集約されます。
| # | 類型 | 具体的に何が起きるか |
|---|---|---|
| 1 | 売上の期ズレ | 締日以降の売上、検収前の出荷、工事の進捗分 |
| 2 | 仕入・外注費の期ズレ | 期末までに検収した仕入の未計上、翌期分の前払 |
| 3 | 前払費用の未計上 | 期末月に払った翌期分の保険料・家賃・広告費 |
| 4 | 貯蔵品の未計上 | 期末に買い込んだ切手・印紙・消耗品 |
★1と2は逆方向に効きます。売上の期ズレは所得を増やす方向、仕入の期ズレは減らす方向です。調査官は当然、売上は翌期に飛んでいないか、仕入は当期に食い込んでいないかという見方で入ってきます。両方向を自分で点検しておくと、指摘されても説明ができます。
3については、1年以内の役務提供に対応する前払で継続適用しているものは、支払った期の損金にできる取扱い(短期前払費用)があります。線引きは短期前払費用の判断にまとめています。
5. ★仕掛品は商品だけの話ではない
「うちは在庫を持たないサービス業だから棚卸は関係ない」という会社ほど、ここを落とします。
翌期の売上に対応する当期の支出は、当期の費用ではありません。
- 来期に開催する展示会のために、当期に払った設営費・外注費
- 制作途中の書籍、開発途中のソフトウェア
- 受注しているのに引き渡していない案件の原価
これらは仕掛品として資産に残すのが原則です。費用収益対応は、建設業や製造業だけの話ではありません。
在庫そのものの考え方は棚卸と売上原価にまとめています。
6. ★租税公課は「いつの分か」ではなく「いつ確定したか」
決算整理で意外に間違えるのが租税公課です。その税金が何年度分かではなく、納税方式ごとに決まった時点で損金になります(法基通9-5-1)。
| 納税方式 | 例 | 損金になる事業年度 |
|---|---|---|
| 申告納税方式 | 法人事業税、事業所税、酒税 | 納税申告書を提出した日の属する事業年度。更正・決定によるものはその日 |
| 賦課課税方式 | 固定資産税、償却資産税、不動産取得税、自動車税 | 賦課決定のあった日の属する事業年度。ただし納期の開始の日、または実際に納付した日に損金経理してもよい |
| 特別徴収方式 | ゴルフ場利用税、軽油引取税 | 申告の日の属する事業年度 |
| 利子税・納期限の延長に係る延滞金 | 申告期限を延長したときのもの | 納付の日の属する事業年度。ただし未納額を損金経理で未払金に計上したときはその事業年度 |
★賦課課税方式には3つの選択肢があるという点が実務では効きます。固定資産税・償却資産税は、賦課決定があった日・各納期の開始の日・実際に納付した日のどれで損金経理してもかまいません。ただし選んだやり方を毎期変えるのは通りません。
★申告納税方式には例外が1つあります。製造原価・工事原価その他これらに準ずる原価に、申告期限がまだ来ていない事業所税が含まれている場合、その金額を損金経理により未払金に計上したときは、その事業年度の損金にできます(法基通9-5-1(1)イ)。原価に入っているものだけが対象で、販売費及び一般管理費に計上している事業所税には使えません。
なお法人事業税・特別法人事業税には別の特例があり、直前年度分は申告がまだでも当期の損金にできます(法基通9-5-2)。これが別表四・五(一)で事業税だけルールが違って見える理由です。
7. 期末を過ぎると手遅れになるもの
決算整理は「期末後にやる作業」ですが、期末までに事実が完成していないと使えないものがあります。
- 損金経理が要件になっているもの(減価償却費、貸倒引当金の繰入、少額減価償却資産、貸倒損失など)
- 期末までに債務が確定していることが要るもの
- 書面による債務免除のように、期末までに行為を終えていないといけないもの
この線引きは決算調整事項と申告調整事項に、期末までの打ち手は決算対策の4つの型にまとめています。
範囲注記:この記事は法人税の所得計算のための決算整理を扱っています。会計監査・株主総会の招集手続・計算書類の承認は会社法の領域で、登記が絡むものは司法書士に確認してください。社会保険料の預り金の点検は、保険料額そのものの決定(算定基礎届・月額変更届)とは別で、そちらは社会保険労務士の領域です。
まとめ
- 決算整理は残高を実際に合わせる+期間帰属を直す。勘定科目内訳明細書を作る作業がそのまま点検になる
- 収益は引渡しの日・役務提供の日。★請求書の日付は関係ない。基準を選んだら継続適用
- ★収益の額は貸倒れ・買戻しの可能性がないものとして計算する。危ない先だから少なく立てる、はできない
- 調査で出るのは期ズレ4類型。★売上は翌期に飛んでいないか、仕入は当期に食い込んでいないか、両方向を点検する
- ★仕掛品は商品だけの話ではない。翌期の売上に対応する当期の支出は資産に残す
- ★租税公課は納税方式ごとに損金の時期が違う。賦課課税方式は3つの選択肢があるが、毎期変えない
- ★現金・仮払金・貸付金を残したまま締めない。会社と社長のお金が混ざっていないか
- 期末を過ぎると使えないものがある。損金経理が要件のものは決算まで
- 法人税法22条の2(収益の額。引渡しの日又は役務の提供の日、近接する日、引渡し時の価額、貸倒れ・買戻しの可能性がないものとした価額)
- 法人税法施行令31条(棚卸資産の法定評価方法)/法人税法33条(資産の評価損)
- 法人税基本通達9-5-1(租税の損金算入の時期。申告納税方式・賦課課税方式・特別徴収方式・利子税及び納期限の延長に係る延滞金)
- 法人税基本通達9-5-2(事業税及び特別法人事業税の損金算入の時期の特例)
- 国税庁「勘定科目内訳明細書の様式・記載要領」「法人事業概況説明書の書き方」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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