「中小企業には関係ない」と言われる3つの制度──電子申告の義務化・押印の廃止・グループ通算の、関係あるところだけ
この連載でここまで扱ってきたのは、中小企業に関係がある制度でした。今回は逆に、「うちには関係ない」で片づけられている3つを取り上げます。
- 電子申告(e-Tax)の義務化
- 押印の廃止
- グループ通算制度
結論から言うと、2つは本当にほぼ関係ありません。でも3つ目は、名前が違うだけですでにあなたの会社に適用されている可能性があります。
この記事の結論
- 電子申告の義務化の対象は期首資本金1億円超の法人と★通算法人ほか(法法75の4②)
- ★判定は「事業年度開始の時」。期中に増資して1億円を超えても、その事業年度は対象外
- ★対象法人が書面で出すと申告書は無効。2期連続なら青色申告の承認の取消対象
- 押印は令和3年4月1日以降、原則不要。残るのは★担保・物納の実印書類と★遺産分割協議書の2類型だけ
- ★振替依頼書・ダイレクト納付利用届出書は、金融機関の求めで銀行印が要る(e-Tax提出なら不要)
- グループ通算は選択制。中小企業に効くのは★大通算法人になると中小特例が全部消える、★800万円がグループで配分される、★少額特例は通算法人を一律に除外の3つ
- ★★「完全支配関係」は選択制ではない。しかも規定ごとに「法人による」限定の有無が違う
- ★個人株主の完全支配関係は、親族を含めて判定する(法令4の2②)
1. まず、本当に対象外なのか
| 制度 | 中小企業は | 例外 |
|---|---|---|
| 電子申告の義務化 | 対象外 | ★通算法人なら資本金1億円以下でも対象 |
| 押印の廃止 | 全員が対象(負担が減る話) | ★2類型だけ押印が残る+振替依頼書の銀行印 |
| グループ通算制度 | 選択しなければ関係なし | ★「完全支配関係」の規定は選択の余地がない |
順に見ます。
2. 電子申告の義務化──判定は「事業年度開始の時」
条文は対象を5つ挙げています。
前項に規定する特定法人とは、次に掲げる法人をいう。
一 当該事業年度開始の時における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
二 通算法人(前号に掲げる法人を除く。)
三 保険業法に規定する相互会社
四 投資法人
五 特定目的会社
(法人税法75条の4第2項)
適用は令和2年4月1日以後に開始する事業年度からです。対象税目は法人税・地方法人税・消費税・地方消費税で、地方税(法人住民税・法人事業税)も義務化されています。対象書類は申告書と、添付すべきものとされている書類のすべてです。
★「事業年度開始の時」で判定します。期中に増資して資本金が1億円を超えても、その事業年度は対象外です。逆に期首時点で1億円超なら、期中に減資してもその事業年度は対象です。決算期を跨ぐ資本政策があるときは、ここを間違えないでください。
★2号の「通算法人」が見落とされます。資本金1億円以下でも、グループ通算を選択していれば義務化対象です。
守らなかったらどうなるか
★対象法人が書面で提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われます。提出していないのと同じなので、無申告加算税の対象です。さらに2期連続で法定申告期限内に申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象になります(国税庁「大法人の電子申告の義務化」)。加算税の水準は加算税早見表にまとめています。
★やむを得ないときの逃げ道もあります。電気通信回線の故障、災害その他の理由でe-Taxの使用が困難な場合、所轄税務署長の承認を受ければ書面提出が有効になります(法法75の5①)。申請書はその期間の開始の日の15日前まで。そして、申告期限の延長と同じく開始の日までに承認・却下の処分がなければ、承認があったものとみなされます(同⑤)。
義務でない会社が受け取れるもの
中小企業は対象外ですが、実務はほぼ電子申告に移っています。義務ではなく、得だからです。
| 使えること | 中身 |
|---|---|
| 勘定科目内訳明細書の簡素化 | 記載件数が100件超の場合、①記載量が多い14科目で上位100件のみ記載、②受取手形・買掛金等7科目で支店・事業所別記載、のいずれも可 |
| 添付書類のイメージデータ送信 | 一定の解像度・階調要件を満たせばPDFで送れる。紙原本の保存が不要 |
| CSV形式での提出 | 別表・財務諸表・内訳明細書 |
| その他 | 送信容量の拡大、光ディスク等による提出 |
★1つ目は決算整理の負担に直結します。内訳明細書は決算整理の点検表でもあるので、件数が多い会社ほど効きます。
3. 押印の廃止──残った2つ
国税に関する法令に基づき税務署長等に提出される申告書等については、これまで提出者等の押印をしなければならないこととされていましたが、令和3年度税制改正により、令和3年4月1日以降、次に掲げるものを除いて、押印を要しないこととされました。
(1) 担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類
(2) 相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類
(国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて」)
(2)は要するに遺産分割協議書です。法人税の申告で押印が要る場面は、実務上ありません。
細かいところを4つ。
- 納税証明書の交付請求等の委任状も押印不要。ただし特定個人情報の開示請求・閲覧申請は、引き続き押印等が必要
- 押印欄のある古い様式を使っても差し支えない。押さなくてよい
- 任意で押しても差し支えないが、押印の有無によって効力に影響は生じない
- ★振替依頼書・ダイレクト納付利用届出書は、金融機関からの求めに応じ、引き続き金融機関届出印(銀行印)の押印が必要。ただしe-Taxで提出する場合は不要
★最後の1つだけ残っている、という理解で足ります。税務署が求めているのではなく、金融機関が求めています。
範囲注記:株主総会議事録・取締役会議事録の押印や、登記申請における印鑑証明書の要否は、会社法・商業登記法の話で、税務の押印廃止とは別です。決算の確定に必要な議事録の作り方や、登記まわりは司法書士にご確認ください。
4. グループ通算──選択したときの3点だけ
グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から、連結納税制度に代わって適用されています。親法人と、その親法人による完全支配関係がある子法人に限られ、適用は選択制です。
選択しないなら関係ありません。それでも押さえるのは次の3つです。
| 論点 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| ★大通算法人 | 通算グループ内に1社でも資本金1億円超の法人がいると、資本金1億円以下の法人も含めてグループ全員が中小特例を使えなくなる | 法法66⑥ |
| ★800万円は配分される | 中小通算法人でも、19%が使える軽減対象所得金額は「800万円×自社の所得÷グループ全体の所得」。1社ごとに800万円ではない | 法法66⑦ |
| ★少額特例は使えない | 40万円未満の少額減価償却資産の特例は、通算法人を一律に対象外としている | 措法67の5① |
★交際費の800万円にも同じ構造があります。通算完全支配関係がある他の通算法人のいずれかが資本金1億円超なら定額控除限度額が使えず(措法61の4②二)、使える場合でも800万円は交際費の額の比で配分されます(同③二)。交際費の800万円枠は、単体の会社の話です。
5. ★★本題──「完全支配関係」は選べない
ここからが、資産管理会社を2社以上持っている方に効く話です。
グループ通算は選択制ですが、グループ法人税制(完全支配関係がある法人に適用される制度)は選択の余地がありません。通算していなくても、自動的に適用されます。
まず、判定の範囲です。
完全支配関係とは、一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと特殊の関係のある個人)が法人の発行済株式等の全部を保有する場合における当該一の者と当該法人との間の関係(直接完全支配関係)をいう。この場合において、一の者及びこれとの間に直接完全支配関係がある法人が他の法人の発行済株式等の全部を保有するときは、当該一の者は当該他の法人の発行済株式等の全部を保有するものとみなす(法人税法施行令4条の2第2項)。
★個人株主の場合、親族等を含めて判定します。社長が100%持つA社と、社長の配偶者が100%持つB社は、完全支配関係にあります。「別の会社だから関係ない」ではありません。
そして、ここが本題です。規定によって「法人による完全支配関係に限る」という限定が付いているものと、付いていないものがあります。
| 規定 | 条文 | 「法人による」限定 | ★社長個人が2社を持つ兄弟会社に効くか |
|---|---|---|---|
| 寄附金の全額損金不算入 | 法法37② | あり | 効かない |
| 受贈益の全額益金不算入 | 法法25の2① | あり | 効かない |
| ★譲渡損益調整資産の損益繰延べ | 法法61の11① | なし | ★効く |
| ★貸倒引当金の対象外 | 法法52⑨二 | なし | ★効く |
| 軽減税率19%が使えない(資本金5億円以上の大法人の100%子会社) | 法法66⑤二・三 | 大法人の定義による | 大法人がいなければ関係なし |
★同じ「完全支配関係」という言葉なのに、効く範囲が違います。
意味するところは、たとえばこうです。
- 社長が100%持つA社からB社へ、寄附や債権放棄をしても、グループ法人税制の全額損金不算入・全額益金不算入は適用されません(法人による完全支配関係ではないため)。★ただし通常の寄附金の損金算入限度額の計算や、貸倒れとして認められるかの判定は別途あります
- 社長が100%持つA社からB社へ建物を売ると、譲渡益は繰り延べられます(限定がないため)。売った期に利益は出ません
- A社がB社に対して持つ売掛金は、★貸倒引当金の対象になりません。一括評価の分母から外します
★3つ目は毎期の決算で効きます。同族の会社間で管理料や工事代金をやり取りしている場合、その未収分を一括評価金銭債権に入れてはいけません。
6. 自分の会社に当てはめる
3つの制度について、確認することはこれだけです。
| 確認 | 判定 |
|---|---|
| 期首の資本金は1億円を超えているか | 超えていなければ電子申告は義務ではない(それでも使う) |
| 振替依頼書を紙で出すか | ★銀行印が要る。e-Taxなら不要 |
| グループ通算を選択しているか | していないなら通算の3点は関係ない |
| ★社長とその親族で、100%持っている会社が2社以上あるか | ★あるなら、譲渡損益の繰延べと貸倒引当金の除外が効いている |
範囲注記:グループ通算制度の選択・取りやめ、加入・離脱に伴う時価評価や欠損金の切捨ては、この記事の範囲を超えます。該当する可能性がある場合は、個別に検討してください。この記事は「選択していない中小企業に、どこが効いているか」を扱っています。
まとめ
- 電子申告の義務化=期首資本金1億円超、★通算法人、相互会社、投資法人、特定目的会社(法法75の4②)
- ★判定は事業年度開始の時。期中の増減資はその期に影響しない
- ★対象法人の書面提出は無効。2期連続で青色取消の対象。困難な場合は15日前までの申請+みなし承認(法法75の5)
- 義務でなくても使う理由=内訳明細書の簡素化・イメージ送信・CSV
- 押印は原則不要。残るのは★担保・物納の実印書類と★遺産分割協議書。★振替依頼書は銀行印
- グループ通算の3点=★大通算法人で中小特例が全部消える/800万円は配分/少額特例は一律除外
- ★★グループ法人税制は選択制ではない。しかも★「法人による」限定の有無が規定ごとに違う
- ★個人株主の完全支配関係は親族を含めて判定(法令4の2②)。兄弟会社は他人ではない
- 法人税法75条の4(電子情報処理組織による申告。2項の特定法人の範囲)/75条の5(電子情報処理組織による申告が困難である場合の特例。2項の申請期限、5項のみなし承認)
- 国税庁「大法人の電子申告の義務化について」(書面提出は無効として取り扱われること、e-Tax利用による利便)/事務運営指針「法人の青色申告の承認の取消しについて」(法人税法127条1項4号による取消しは2事業年度連続して期限内申告がない場合)
- 国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて」(令和2年12月21日・令和3年4月1日最終更新)
- 法人税法66条(税率。2項の「通算法人を除く」、5項2号・3号の大法人による完全支配関係、6項の大通算法人、7項の軽減対象所得金額)
- 租税特別措置法67条の5第1項(少額減価償却資産の特例。通算法人の除外)/61条の4第2項2号・第3項2号(交際費等の定額控除限度額と通算定額控除限度分配額)
- 法人税法25条の2第1項(受贈益の益金不算入)/37条2項(完全支配関係がある法人に対する寄附金)/52条9項2号(貸倒引当金から除かれる金銭債権)/61条の11第1項(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)
- 法人税法施行令4条の2第2項(完全支配関係。個人の場合は特殊の関係のある個人を含む)
- 国税庁タックスアンサーNo.5900、グループ通算制度に関するQ&A
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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