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更新日 2026-08-07 節税・経費

福利厚生費はどこまで使えるか──社員旅行・健康診断・食事補助・慶弔見舞金と、一人社長の壁

福利厚生費は、法人の経費のなかで最も条件のいい箱です。会社では損金、受け取る側では課税されない。役員報酬なら所得税・住民税・社会保険料がかかることを考えると、差は大きい。

ただしこの箱には、はっきりした壁があります。所得税基本通達36-29と36-30が、どちらも「役員だけを対象として供与される場合を除き」と書いているのです。

つまり福利厚生費は「従業員のための制度」であって、一人社長の会社では使えるものが限られます。ここを最初に押さえておかないと、あとで全部が給与になります。

この記事の結論

  • 通達36-29・36-30は「役員だけを対象とする場合」を明確に除外している
  • 一人社長・役員だけの会社では、社員旅行もレクリエーションも使えない
  • 社員旅行:4泊5日以内(海外は現地4泊5日以内)+参加者が全体の50%以上。不参加者に金銭を渡すと、参加者を含む全員に給与課税
  • 食事の支給:本人が半額以上を負担し、会社負担が月7,500円以下(3,500円は古い数字)
  • 残業・宿日直の食事は無料で支給しても課税されない
  • 健康診断:全員を対象、著しく高額でない、会社が医療機関に直接支払う
  • 慶弔見舞金:社会通念上相当な額なら非課税。ただし規程を作っておく
  • 記念品:永年勤続はおおむね10年以上・2回目以降は5年以上の間隔。創業記念品は1点1万円以下。いずれも現金に代えて支給するものは対象外

1. 壁は「役員だけ」──通達の原文

まず根拠を確認しておきます。

所得税基本通達36-29(福利厚生施設の利用等)

使用者が役員若しくは使用人に対し自己の営む事業に属する用役を無償若しくは通常の対価の額に満たない対価で提供し、又は役員若しくは使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、(中略)当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない。

所得税基本通達36-30(レクリエーションの費用)

使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、(中略)使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。

どちらも同じ構造です。「役員だけ」は除外

一人社長の会社では、レクリエーション系の福利厚生はほぼ成立しません。「社員旅行に行ってきました(参加者:社長のみ)」は、旅行費用がまるごと役員給与です。ここは無理をしないほうがいい部分です。

なお、従業員が1人でもいれば話は変わります。全従業員を対象とした制度として設計できれば、役員もその対象に含めることができます。

2. 社員旅行

従業員レクリエーション旅行が非課税になる要件は、次の2つです。

要件 内容
旅行期間 4泊5日以内。海外旅行の場合は外国での滞在日数が4泊5日以内
参加割合 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上

そのうえで、費用が「社会通念上一般的に行われていると認められる範囲」であることが前提になります。金額の上限は通達に書かれていません。実務では10万円程度が目安として語られますが、これは条文上の基準ではなく、判断は総合的に行われます。

そして、いちばん怖い落とし穴がこれです。

自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされます

「行かない人には現金で3万円」としてしまうと、行った人も含めて全員に3万円の給与課税が発生します。ここは絶対に守ってください。

また、役員だけで行う旅行は従業員レクリエーション旅行に当たりません。給与または交際費として処理することになります。

3. 食事の支給 ── 月7,500円(制度が変わっています)

食事の支給が給与課税されないための要件は2つです。

  1. 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること
  2. (食事の価額)−(本人負担額)が1か月あたり7,500円以下(消費税および地方消費税の額を除く)

この上限は月3,500円ではありません。令和8年4月1日現在の国税庁タックスアンサー(No.2594)で7,500円と示されています。古い解説記事が大量に残っているので、社内規程を見直してください。

要件を満たさない場合は、差額が給与として課税されます。半額負担を割ってしまうと、上限内でもアウトです。

なお、残業または宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてよいという別の扱いがあります。残業時の弁当代は、この枠で処理できます。

4. 健康診断・人間ドック

明文の通達で金額が決まっているわけではありませんが、実務上は次の3つが揃っていれば福利厚生費として扱われます。

  • 全員(または一定年齢以上の全員)を対象としていること
  • 費用が著しく高額でないこと
  • 会社が医療機関に直接支払うこと(本人に現金を渡すと給与)

「役員だけが人間ドック」は36-29で落ちます。年齢による区分(35歳以上は人間ドック、それ未満は定期健診)のように、合理的な基準による差なら問題になりません。

個人事業主本人の健康診断が経費にならない理由は 健康診断・人間ドック・ジム代は経費になる? にあります。法人になると「対象者の設計」の問題に変わる、というのがポイントです。

5. 慶弔見舞金

結婚祝金、出産祝金、香典、傷病見舞金、災害見舞金。これらは社会通念上相当と認められる金額であれば、受け取る側で課税されません。

金額の基準は法令に定められていません。だからこそ、慶弔見舞金規程を作っておくことが実務上の防御になります。

  • 対象(役員・従業員・その家族)
  • 事由ごとの金額(結婚、出産、傷病、死亡、災害)
  • 勤続年数や役職による差をつけるならその基準

社長個人の香典を会社が出した、というような形は寄附金や給与になります。会社として、規程に基づいて出すという形が要ります。

6. 記念品 ── 現金は不可

永年勤続者の記念品(所得税基本通達36-21)

  • 利益の額が、勤続期間等に照らし社会通念上相当であること
  • 表彰がおおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、2回以上表彰を受ける者についてはおおむね5年以上の間隔をおいて行われること

創業記念品等(所得税基本通達36-22)

  • 記念品が社会通念上記念品としてふさわしく、価額(処分見込価額)が1万円以下であること
  • 一定期間ごとに到来する記念に際し支給するものは、おおむね5年以上の期間ごとであること

どちらの通達にも、「現物に代えて支給する金銭は含まない」と明記されています。商品券やギフトカードは現金に近いものとして扱われるため、実務では避けるのが無難です。

7. 資格取得・研修費用

所得税基本通達36-29の2は、会社が業務の遂行上の必要に基づき、役員または使用人に職務に直接必要な技術・知識を習得させ、または免許・資格を取得させるための研修会・講習会等の出席費用や大学等の聴講費用として支給する金品を、適正なものに限り課税しないとしています。

これは36-29・36-30と違い、「役員だけを対象とする場合を除く」という限定がありません。職務に直接必要かどうかが判定軸です。

個人事業主の場合との違いは 資格取得費・セミナー代・書籍代は経費になる? を参照してください。

8. 一人社長の会社で、使えるもの・使えないもの

整理します。

項目 一人社長(役員のみ)の会社
社員旅行・忘年会・運動会 使えない(36-30の「役員だけ」に該当)
社内の食事補助 使えない(36-29の対象外になる)
残業時の食事 事実として残業の実態があれば可
健康診断 使えない(役員だけが対象になるため)
慶弔見舞金 規程があれば可。ただし対象が自分だけの規程は説明しにくい
記念品 同上
研修・資格取得費 使える(36-29の2は「役員だけ」の除外がない)
社宅 使える(福利厚生ではなく別の制度)
出張日当 使える(旅費の非課税は別の条文)

一人社長の会社で本当に効くのは、社宅・出張日当・研修費の3つです。福利厚生費に無理に寄せず、この3つを正しく作り込むほうが結果が出ます。

9. 従業員を雇ったら、制度として作る

従業員がいる会社なら、福利厚生は正面から使えます。ただし「制度として存在すること」が要件になるので、次を整えてください。

  1. 福利厚生規程を作る(対象・内容・金額・手続き)
  2. 全従業員に適用する。役員だけ、特定の人だけにしない
  3. 合理的な差ならつけてよい(勤続年数、年齢、役職)。ただし基準を規程に書く
  4. 現金で渡さない。現物・実費・直接支払いが原則
  5. 記録を残す(参加者名簿、領収書、案内文)

なお、就業規則・労働条件・社会保険の取扱いは社会保険労務士および労働基準監督署・年金事務所の領域です。この記事は税務上の取扱いに限っています。

まとめ

  • 通達36-29・36-30は「役員だけを対象とする場合」を除外している。一人社長の会社では福利厚生費は狭い
  • 社員旅行:4泊5日以内・参加50%以上。不参加者に金銭を渡すと全員が給与課税
  • 役員だけの旅行は従業員レクリエーション旅行に当たらない
  • 食事の支給:半額以上の本人負担+会社負担が月7,500円以下(3,500円は古い)
  • 残業・宿日直の食事は無料でも課税されない
  • 健康診断:全員対象・著しく高額でない・会社が直接支払う
  • 慶弔見舞金:社会通念上相当な額。規程を作っておく
  • 記念品:永年勤続はおおむね10年以上・間隔5年以上。創業記念品は1万円以下。現金は不可
  • 一人社長の会社で効くのは社宅・出張日当・研修費の3つ

この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税基本通達36-21(永年勤続者の記念品等)/36-22(創業記念品等)/36-29(福利厚生施設の利用等)/36-29の2(技術の習得等をさせるために支給する金品)/36-30(レクリエーションの費用)
  • 所得税基本通達28-5(葬祭料、香典等)
  • 国税庁タックスアンサー No.2594(食事を支給したとき・令和8年4月1日現在法令等)/No.2603(従業員レクリエーション旅行や研修旅行・令和7年4月1日現在法令等)
  • 昭和63年5月25日付直法6-9ほか(従業員レクリエーション旅行の取扱い)
  • ※金額基準は改正が続いています
  • ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります

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