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更新日 2026-08-07 節税・経費

役員報酬はいくらにするのが得か──法人税・所得税・社会保険を合計して最小点を探す

法人化して最初に決めることであり、いちばん間違えやすいのが役員報酬の金額です。

「利益が出そうだから報酬を上げて法人税を減らそう」。これは半分しか合っていません。報酬を上げると、確かに法人税は減ります。しかし所得税・住民税と社会保険料が増えます。しかも社会保険料は、会社負担と本人負担を合わせると報酬の約30%です。

一人社長の会社では、会社負担も本人負担も、結局は同じ財布から出ていきます。だから見るべきは3つの合計です。

この記事の結論

  • 見るのは法人税等・所得税と住民税・社会保険料の合計。1つだけ見て決めない
  • 報酬を上げると法人税は減るが、所得税・住民税+社会保険料の増え方のほうが速い帯がある
  • 社会保険料は労使合計で報酬の約30%。一人社長の会社では実質そのぶん全部が自分のコスト
  • ただし社会保険料には上限がある。厚生年金は月額65万円、健康保険は月額139万円で頭打ち
  • 会社に利益を残す道もある。中小法人は年800万円以下の所得に軽減税率が適用される
  • 決めるのは期首から3か月以内。あとから変えられないので、年間の利益予測が先
  • ※金額はすべて概算です。実際の判断は自社の数字で試算してください

1. 3つの負担を並べる

役員報酬を1円動かすと、次の3つが同時に動きます。

報酬を上げると 中身
法人税等 減る 法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税。中小法人の実効税率は所得800万円以下でおおむね22%前後、800万円超でおおむね33%前後
所得税・住民税 増える 給与所得控除を引いたあと、所得税5〜45%の累進+住民税10%
社会保険料 増える 健康保険・介護保険・厚生年金・子ども子育て拠出金。労使合計で報酬の約30%

この3つ目が見落とされがちです。社会保険料は税金ではありませんが、強制的に取られる点では税金と同じです。しかも税率で言えば所得税より重い帯があります。

社会保険料の中身と、料率・上限の詳細は 社会保険は第二の税金 にまとめました。ここでは「労使合計で約30%」という数字だけ持っておいてください。

2. なぜ「全部報酬で出す」が最適にならないか

会社の利益を全部役員報酬で出すと、法人の所得はゼロになります。法人税は均等割(最低年7万円)だけ。一見すると得に見えます。

しかしそのとき、社長個人には次がかかります。

  • 所得税(累進:課税所得330万円超で20%、695万円超で23%、900万円超で33%)
  • 住民税10%
  • 社会保険料 約30%(上限まで)

課税所得が400万円あたりの帯では、所得税20%+住民税10%+社会保険料30%で合計60%という計算になります。同じお金を会社に残せば、法人税等は22%前後です。

もちろん会社に残したお金は、いつか出すときに課税されます。だから「会社に残せば得」でもありません。どちらか一方に寄せるのではなく、配分を探すという話になります。

3. なぜ「全部会社に残す」も最適にならないか

逆に報酬を最低限にして会社に利益を残すと、次の問題が出ます。

  • 生活費が足りない。会社のお金は自由に使えません。社長が使えば役員貸付金になり、認定利息が発生します
  • 所得税の累進の低い帯を使い切っていない。課税所得195万円以下は所得税5%です。この安い帯を使わずに、法人税22%を払うのは非効率です
  • 給与所得控除を捨てている。報酬がゼロなら控除もゼロです
  • 社会保険に入れない場合がある。報酬が著しく低いと被保険者資格が認められないことがあります
  • 出口で課税される。会社に残した利益は、いつか報酬・配当・退職金として出すときに課税されます

つまり、低い帯だけは報酬で使い切るのが基本の考え方になります。

4. 順番──先に決めるのは「生活に要る金額」

実務では、次の順で決めます。

  1. 年間の生活費を出す。手取りでいくら必要か
  2. その手取りを実現する報酬額を逆算する。社会保険料と所得税・住民税を引く前の金額
  3. 年間の利益予測を立てる。報酬を引く前の営業利益
  4. 残りをどう配分するか決める。会社に残す/報酬を増やす/退職金の原資として積む
  5. 期首から3か月以内に確定する

この順番が大事です。「税金が最小になる金額」から入ると、生活が回らない金額になることがあります。生活費が先、最適化はそのあとです。

5. 目安として持っておく分岐点

自社の数字で試算するのが本筋ですが、考え方の目安として次の3つを覚えておくと判断が速くなります。

(1)年800万円のライン(法人側)

中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率15%が適用されます(800万円超は23.2%)。ただし令和7年4月1日以後に開始する事業年度で、所得が年10億円を超える事業年度は17%です。

つまり会社に残す利益が年800万円を超えると、法人側の税率が一段上がります。「会社に残すなら800万円まで」という目安が出てくるのはこのためです。

(2)社会保険の上限(個人側)

厚生年金は標準報酬月額65万円(報酬月額63万5千円以上)で頭打ちです。健康保険は標準報酬月額139万円まであります。

報酬がこの上限を超える帯では、社会保険料の増え方が止まります。厚生年金の上限を超えたあたりから、報酬を増やすことの不利が小さくなる、という構造があります。

なお厚生年金の上限は、2027年9月から段階的に引き上げられることが決まっています(68万円→71万円→75万円)。高い報酬を取っている会社は、この改正で負担が増えます。

(3)課税所得330万円・695万円・900万円(個人側)

所得税の税率が10%→20%→23%→33%と変わる境目です。住民税10%と社会保険料を足して考えると、900万円の境目を超えると個人側の負担が法人側を明確に上回ります。

6. 「あとで退職金で出す」という第3の道

報酬で出すか、会社に残すか。この二択に見えますが、実は3つ目があります。いま会社に残しておいて、最後に役員退職金で出すという設計です。

退職金は、退職所得控除を引いたあと2分の1だけが課税対象になり、他の所得と分離して課税されます。しかも社会保険料がかかりません

出し方 会社側 個人側の課税 社会保険料
役員報酬 損金(定期同額なら) 給与所得(累進) かかる
役員賞与 事前確定届出給与なら損金 給与所得(累進) かかる(上限あり)
配当 損金にならない 配当所得 かからない
役員退職金 損金(過大でなければ) 退職所得(控除後2分の1・分離課税) かからない

配当が損金にならないのは重要です。「会社の利益を配当で受け取る」は、法人税を払ったあとのお金にさらに課税されるので、中小企業では基本的に不利です。

退職金の適正額には限界があります。無制限に積めるわけではないので、役員退職金の適正額 を先に読んでおいてください。

7. 決めたら3か月以内に確定させる

役員報酬は、事業年度開始の日から3か月以内に改定しなければ、その期は変えられません(定期同額給与)。期の途中で増やせば増額分が損金不算入、減らせば減額後の金額を基準に否認される、という扱いになります。

だから逆算すると、期首の3か月以内に年間の利益予測を立てる必要があります。前期の数字と受注状況から、報酬を引く前の利益がいくらになりそうかを見て、そこから配分を決める。この作業を毎年やる会社と、前年と同じ金額を惰性で続ける会社とで、数年で差がつきます。

改定のルールと業績悪化改定事由は 役員報酬を変えていいのは1年に1回、それも期首から3か月まで にあります。

8. 家族に分けるという手もある

配偶者や親族が実際に会社の業務に従事しているなら、その人にも役員報酬または給与を払えます。同じ総額を2人に分ければ、累進税率の低い帯を2回使えます。

個人事業では所得税法56条があるためこれができませんでした(家族に払った家賃・外注費は経費にならない)。法人化でこの壁が消えるのは大きな違いです。

ただし2つ注意があります。

  • 勤務実態がなければ否認されます。業務内容・勤務時間・他の従業員とのバランスを説明できること
  • 配偶者が社会保険の扶養から外れます。年収の基準を超えると、自分で健康保険料と厚生年金保険料を払うことになります。手取りで見ると逆転することがあるので、社会保険まで含めて計算してください

9. 現場でやること

  1. 期首の3か月以内に、年間の利益予測を立てる
  2. 必要な生活費(手取り)を出し、そこから報酬額を逆算する
  3. 法人税等・所得税と住民税・社会保険料の3つを合計して、いくつかの金額で試算する
  4. 家族に分けられるなら、勤務実態と社会保険の扶養を確認したうえで分ける
  5. 株主総会(または取締役会)で決議し、議事録を残す
  6. 決めたら期中は動かさない

なお、社会保険の加入手続き・算定基礎届・被扶養者の認定は社会保険労務士および年金事務所の領域です。この記事は税務側から見た説明にとどめています。

まとめ

  • 見るのは法人税等・所得税と住民税・社会保険料の合計
  • 社会保険料は労使合計で報酬の約30%。一人社長の会社では実質そのぶん全部が自分のコスト
  • 全部報酬で出す全部会社に残すも最適にならない。低い税率帯を使い切る配分を探す
  • 目安の分岐点は法人の年800万円厚生年金の標準報酬月額65万円課税所得330万円・695万円・900万円
  • 厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引き上げ(68→71→75万円)
  • 第3の道が役員退職金。控除後2分の1・分離課税・社会保険料なし
  • 配当は損金にならないので中小企業では不利
  • 決めるのは期首から3か月以内。年間の利益予測が先
  • ※金額はすべて概算。実際の判断は自社の数字で試算すること

この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税法34条1項1号(定期同額給与)/同法66条(各事業年度の所得に対する法人税の税率)
  • 租税特別措置法42条の3の2(中小企業者等の法人税率の特例=年800万円以下15%、所得10億円超は17%)
  • 所得税法28条(給与所得)/30条(退職所得)/89条(税率)
  • 国税庁タックスアンサー No.1410(給与所得控除)/No.2260(所得税の税率)/No.5759(法人税の税率)
  • 健康保険法40条・45条(標準報酬月額・標準賞与額)/厚生年金保険法20条・24条の4
  • ※税率・控除額・社会保険料率は毎年見直されます
  • ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります

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