事業をやめるとき|廃業届・青色の取りやめ・棚卸資産の家事消費・廃業後に来る経費
事業をやめるときは、始めるときより手続きが多くなります。
しかもやめる年こそ、税金が高くなりやすいという落とし穴があります。売れ残った在庫、共済の解約金、設備の売却代金——普段は出てこない収入がまとめて乗るからです。
そのうえ、廃業後に届く請求書を「もう事業をやめたから経費にできない」と諦めてしまう人もいます。これは制度を知らないだけです。
この記事の結論
– 届出は最大5種類。廃業届は1か月以内、青色の取りやめは翌年3月15日まで
– 売れ残った在庫を自分のものにすると、販売価額の70%と仕入価額の高いほうで収入になる
– 廃業後に生じた費用も経費にできる(所得税法63条)。廃止した年か前年に算入
– 廃業年の個人事業税は、見込み額を必要経費にできる(所基通37-7)
– 設備・車の売却は事業所得ではなく譲渡所得
– 共済の解約は出口の課税が発生する。廃業年に合わせるのは合理的
– 赤字なら繰戻し還付で前年の所得税を取り戻せる
– 帳簿・書類の保存義務は廃業後も続く(原則7年)
– 予定納税の減額申請を忘れない
出す書類(最大5種類)
| 書類 | 出す先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 税務署 | 廃業日から1か月以内 |
| 事業廃止(開始)等申告書 | 都道府県税事務所 | 各都道府県の定めによる(多くは廃止から10〜15日以内) |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 税務署 | やめる年の翌年3月15日まで |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 税務署 | 廃止から1か月以内(従業員・専従者に給与を払っていた場合) |
| 事業廃止届出書(消費税) | 税務署 | 速やかに(課税事業者だった場合) |
都道府県への届出を忘れる人が非常に多いです。税務署への廃業届とは別に、個人事業税を管轄する都道府県税事務所にも出します。出していないと、廃業後も事業税の通知が来ることがあります。
予定納税の減額申請も忘れないでください。前年の実績で7月・11月に予定納税が来ますが、廃業して所得が減るなら減額申請ができます(予定納税とは)。
なお、廃業届の書式は開業届と同じ用紙です。書き方は開業届の提出方法と共通の部分があります。
売れ残った在庫は「70%」で収入になる
物販や飲食をやっていた人が必ず引っかかるのがこれです。
事業を廃止したあと、売れ残った棚卸資産を自分で使ったり、家族にあげたりすると、その時点で「収入」になります(家事消費)。
| 計上する金額 | 内容 |
|---|---|
| 通常の販売価額の70% と 仕入価額(取得価額) のいずれか高いほう以上 | 所得税基本通達39-2 |
例:仕入40万円・定価100万円の在庫が残った場合。
| 金額 | |
|---|---|
| 販売価額の70% | 70万円 |
| 仕入価額 | 40万円 |
| 収入に計上する金額 | 70万円(高いほう) |
「値段がつかないから0円」とはできません。廃棄するなら、廃棄した証拠を残してください(廃棄業者の証明、廃棄時の写真、廃棄リスト)。実際に廃棄すれば、それは家事消費ではなく棚卸資産の廃棄損です。
安売りして現金化するほうが、税務上も資金繰り上も有利になることが多いです。棚卸の基本は棚卸と売上原価を参照してください。
廃業後に来る費用も経費にできる
所得税法63条という、知られていない条文があります。
事業を廃止した後に生じた費用または損失で、廃止しなかったとしたならばその年分の必要経費に算入されるべき金額は、廃止した年分(または前年分)の必要経費に算入する。
つまり——
| 廃業後に発生するもの | 扱い |
|---|---|
| 12月に廃業、翌年1月に届いた12月分の電気代 | 廃業年の経費 |
| 事務所の原状回復費用 | 廃業年の経費 |
| 廃業後に確定した外注費の残債 | 廃業年の経費 |
| 廃業後に回収不能が確定した売掛金 | 廃業年の経費(貸倒れ) |
| 廃業年に払う予定だった顧問料 | 廃業年の経費 |
計上できる金額には制限があります。廃止した年分(または前年分)の所得金額を限度とするため、所得がなければ引ききれません。それでも「もう事業をやめたから経費にできない」というのは誤りです。
廃業する前に、これから出る費用を洗い出しておいてください。原状回復、リース解約金、機器の撤去費用などは金額が大きくなります。
廃業する年の事業税は「見込み」で経費にできる
個人事業税は、通常は課税された年の経費です。ところが廃業年は事業税の賦課決定が翌年になるため、そのままでは経費にできません。
そこで所得税基本通達37-7が、廃業年に限って事業税の見込額を必要経費に算入することを認めています。
計算式は次のとおりです(事業主控除290万円は月割)。
事業税の見込額 =(事業税の課税見込所得 × 税率)÷(1 + 税率)
やや複雑なので、税務署または税理士に確認して計算してください。忘れると数万円〜数十万円の経費を落とすことになります。事業税そのものは個人事業税がかかる法定70業種を参照してください。
やめる年こそ税金が高くなる理由
廃業年には、普段の年には出てこない収入が集中します。
| 何が乗るか | 所得区分 |
|---|---|
| 売れ残った在庫の家事消費 | 事業所得 |
| 経営セーフティ共済の解約手当金 | 事業所得 |
| 設備・車の売却代金 | 譲渡所得(総合課税・50万円特別控除) |
| 小規模企業共済の共済金 | 退職所得(一括の場合) |
| 廃業前の駆け込み売上 | 事業所得 |
一方で経費は減ります。結果として、やめる年がいちばん所得が高くなることがあります。
対策は時期をずらすことです。
- 在庫は廃業前に売り切る(廃業前の売上なら、原価と対応する)
- 経営セーフティ共済は、赤字の年か廃業年に解約する(経営セーフティ共済)
- 設備の売却は50万円の特別控除があるので、年をまたいで分けると2回使える
- 原状回復・撤去は廃業年の経費に寄せる
資産をどうするか
| 資産 | 扱い |
|---|---|
| 売った・下取りに出した | 譲渡所得(事業用の車・機械を売ったとき) |
| 自分で使い続ける(家事転用) | 譲渡ではないので所得は生じない。帳簿から外す |
| 捨てた | 除却損(未償却残高が経費) |
| 売れ残った在庫を自分のものにした | 家事消費(販売価額の70%) |
家事転用は課税されません。車を自家用にするだけなら、その時点で税金は発生しません(ただし将来売却したときの取得費の計算に影響します)。
赤字なら前年の税金を取り戻す
廃業年に赤字が出ても、翌年以後に事業所得は発生しません。繰越控除は他の所得(給与など)があれば使えますが、無ければ意味がありません。
そこで使うのが純損失の繰戻し還付です。前年も青色申告なら、前年に納めた所得税が戻ります。期限内申告+還付請求書の同時提出が条件です。詳しくは赤字の年こそ申告するを参照してください。
この記事は廃業に伴う所得税・消費税の取扱いを扱っています。国民健康保険・国民年金の切替(就職する場合の資格喪失手続、扶養に入る場合の認定)は市区町村・年金事務所および勤務先の所管です。従業員がいる場合の解雇予告・離職票の交付・労働保険の確定精算は労働基準法および労働保険の領域で、社会保険労務士の業務です。許認可事業(飲食・建設・古物・宅建など)の廃止届は各許認可庁へ別途必要です。賃貸借契約の解約予告期間・原状回復の範囲は契約書と借地借家法の問題ですので、争いがある場合は弁護士にご相談ください。
廃業後も残る義務
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 帳簿・書類の保存 | 原則7年(一部5年)。廃業しても消えない(書類は何年保存する?) |
| 廃業年分の確定申告 | 翌年2月16日〜3月15日。廃業しても申告は必要 |
| 消費税の申告 | 課税事業者だった場合、廃業年分の申告が必要 |
| 住民税・事業税の納付 | 翌年に来る。廃業しても払う(予定納税とは) |
| 源泉所得税の納付・法定調書 | 従業員がいた場合、支払った分の手続 |
廃業した翌年に来る税金が、いちばん資金繰りを苦しくします。住民税と国保料は前年の所得で決まるため、収入が無くなった年に、前年の高い所得に基づく請求が来ます。廃業する前に、その分を残しておいてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 廃業日はいつにすればいいですか。
実態として事業を終えた日です。恣意的に決めるものではありませんが、在庫の処分・売掛金の回収・原状回復が終わる時期を見て決めると処理が楽になります。年末に近い日を選ぶと、その年の事業所得と廃業の処理を1年でまとめられます。
Q. 少しだけ仕事が残っています。廃業扱いですか。
継続的に事業として行っていないなら廃業です。廃業後に単発の仕事をした場合、その収入は雑所得として申告することになります(その副業収入は事業所得?雑所得?)。
Q. 廃業届を出さないとどうなりますか。
罰則は定められていませんが、申告書が届き続ける・事業税の通知が来る・無申告と扱われるといった実害があります。必ず出してください。
Q. 法人成りする場合も廃業届は要りますか。
要ります。個人事業としては廃業するので、廃業届・青色の取りやめ届・消費税の事業廃止届(該当すれば)を出します。ただし在庫や資産は法人へ引き継ぐことになるため、譲渡の処理が必要です。個人から法人への売却として、時価で計上します。
Q. 小規模企業共済はどうなりますか。
廃業は共済金Aの事由に該当し、もっとも有利な受取りになります。一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得です。詳しくは小規模企業共済・iDeCoの出口を参照してください。
Q. 廃業した年に開業費の未償却残高が残っています。
繰延資産(開業費)の未償却残高は、事業を廃止した時点で必要経費に算入できます。任意償却なので、廃業年に残額を一括で落とせます。
Q. 事業用口座はすぐ閉じていいですか。
廃業後も売掛金の入金・買掛金の支払い・税金の引き落としが続きます。すべて片付いてから閉じてください。帳簿も、最後の入出金まで記録します。
まとめ
- 届出は最大5種類。税務署だけでなく都道府県にも出す
- 廃業届は1か月以内、青色の取りやめは翌年3月15日まで
- 売れ残った在庫は販売価額の70%と仕入価額の高いほうで収入になる
- 廃業後に生じた費用も経費にできる(所法63条)。所得金額が限度
- 廃業年の事業税は見込額を経費にできる(所基通37-7)
- やめる年は所得が跳ねやすい。在庫の売り切り・共済の解約時期・特別控除で調整
- 赤字なら繰戻し還付で前年の所得税を取り戻す
- 帳簿の保存義務(原則7年)は廃業後も続く
- 翌年に来る住民税・国保料の分を残しておく
- 所得税法229条(開業・廃業等の届出)/同151条・所得税法施行規則ほか(青色申告の取りやめ届出書は翌年3月15日まで)
- 所得税法39条(棚卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入)/所得税基本通達39-2(通常の販売価額のおおむね70%相当額以上で計上していれば認める。ただし取得価額を下回らないこと)
- 所得税法63条(事業を廃止した場合の必要経費の特例。廃止した年分または前年分の必要経費に算入。所得金額を限度)
- 所得税基本通達37-7(事業を廃止した年分の個人事業税の見込控除)
- 所得税法70条・140条(純損失の繰越控除・繰戻し還付)
- 消費税法57条1項3号(事業廃止届出書)
- 地方税法(個人事業税。都道府県への事業廃止の申告)
- 所得税法施行規則63条(帳簿書類の保存期間)
- ※2026年時点の取扱いです。都道府県への届出期限は各都道府県の条例によります
次に読む
👉 事業用の車・機械を売ったとき——総合譲渡所得と50万円特別控除
👉 小規模企業共済・iDeCoの「出口」——受け取るときの税金
👉 赤字の年こそ申告する——純損失の繰越控除と繰戻し還付
👉 経営セーフティ共済は個人事業主も使える
👉 書類は何年保存する?7年と5年の使い分け