事業が伸びて、年の売上が1,000万円に届きそう。うれしい反面、「消費税が来る」という話だけは聞いたことがある——という状態で相談に来る方が多い論点です。
不安の中身は、たいてい3つに分かれます。いつから納めるのか。いくら取られるのか。何をしておけばいいのか。
最初の答えははっきりしています。今年1,000万円を超えても、今年の消費税はかかりません。効いてくるのは2年後です。
この記事の結論
– 判定は前々年(基準期間)の課税売上高。2026年に超えたら2028年から課税事業者
– もうひとつ特定期間(前年1〜6月)の判定がある。ただし課税売上と給与の両方が1,000万円超のときだけ
– 免税事業者だった年の売上は税抜きにせず、そのままの金額で1,000万円を判定する
– すでにインボイス登録している人は、もう課税事業者。1,000万円判定は納税額の計算方法に効く
– 1,000万円超で課税事業者になる年は「2割特例」が使えない——ここが最大の落とし穴
– 簡易課税を使いたいなら、適用したい年の前年12月31日までに届出
消費税は「今年の売上が1,000万円を超えたから今年から」ではありません。2年前を見るという独特のルールで動きます。
| 用語 | 個人事業主の場合 | 判定 |
|---|---|---|
| 基準期間 | 前々年(1月〜12月) | 課税売上高が1,000万円超なら、その年は課税事業者 |
| 特定期間 | 前年の1月1日〜6月30日 | 課税売上高が1,000万円超かつ給与等支払額も1,000万円超なら課税事業者 |
時系列にするとこうなります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2026年 | 課税売上高が1,100万円になった(この年は免税のまま) |
| 2027年 | 基準期間は2025年。まだ1,000万円以下なので免税 |
| 2028年 | 基準期間は2026年=1,100万円 → 課税事業者。この年の取引から消費税がかかる |
| 2029年3月31日 | 2028年分の消費税を申告・納付 |
超えた年から実際に納めるまで、2年以上の猶予があるということです。この間に準備できます。
特定期間の判定は、上の表を1年前倒しにすることがある救済のない側の話ですが、課税売上高と給与等支払額の両方が1,000万円を超えたときだけ発動します。人を雇っていない個人事業主なら給与等支払額が小さいので、この判定で課税になることはまずありません。
ここで間違えやすい点が2つあります。
1つめ。免税事業者だった期間の売上は、税抜きにしません。 課税事業者なら「税抜きの売上」で判定しますが、免税事業者は消費税を預かっていない扱いなので、受け取った金額そのままで1,000万円を判定します。1,080万円の入金があれば、1,000万円で割り戻さず1,080万円として数えます。「税抜きにすれば1,000万円以下だと思っていた」は通りません。
2つめ。すべての収入が入るわけではありません。
| 入るもの | 入らないもの |
|---|---|
| 商品の販売、サービスの提供、制作物の納品 | 給与(雇われて得たもの) |
| 事業用資産の売却 | 受取利息、株式の配当 |
| 店舗・事務所・駐車場の賃料 | 住宅の家賃(非課税) |
| 輸出免税の売上(海外向けも含める) | 保険金、損害賠償金、補助金・助成金 |
住宅の家賃収入がある人は要注意です。住宅家賃は非課税なので判定に入りませんが、店舗や駐車場の賃料は入ります。不動産と事業を両方やっている場合、ここの仕分けで結論が変わります。
インボイスに登録している人は、すでに課税事業者です。1,000万円を超えたかどうかで課税事業者になるかは変わりません。
ではこの判定は何に効くのか。納税額の計算方法です。
2割特例が使えるのは、「インボイス登録がなければ免税事業者だった人」だけです。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えて課税事業者になる年は、2割特例の対象から外れます。
2割特例は「預かった消費税の2割だけ納める」という強力な軽減措置です(インボイス登録したら消費税も申告?2割特例での申告)。これが使えなくなると、納税額が一気に増える可能性があります。
具体例で見ます。課税売上1,100万円(税抜1,000万円、預かった消費税100万円)、課税仕入が300万円(うち消費税約27万円)というケース。
| 計算方法 | 納税額の目安 | 使えるか |
|---|---|---|
| 2割特例 | 100万円 × 20% = 20万円 | 1,000万円超の年は使えない |
| 簡易課税(第5種サービス業・みなし仕入率50%) | 100万円 × (1−50%) = 50万円 | 前年末までの届出が必要 |
| 本則課税 | 100万円 − 27万円 = 約73万円 | 届出不要(インボイスの保存が必要) |
同じ売上でも20万円と73万円では、事業の手残りがまったく違います。何もしなければ本則課税になるので、放置がいちばん高くつく構図です。
なお2割特例は2026年9月30日を含む課税期間までの措置なので、個人事業者にとっては2026年分が最後の適用年です(2026年時点)。1,000万円を超えていない人も、来年からは選択肢が2つに減ります。
いちばん実務的に重要なのがこの期限です。
消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに出す必要があります。個人事業主なら前年の12月31日です。2028年分から簡易課税を使いたいなら、2027年12月31日まで。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 適用要件 | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下 |
| 届出期限 | 適用したい年の前年12月31日まで |
| 継続義務 | 2年間は本則に戻せない |
| 計算 | 預かった消費税 × (1 − みなし仕入率)。業種で40〜90% |
「決算を締めてから有利なほうを選ぶ」ことはできません。先に決めて、先に出すしかない制度です。だから、1,000万円を超えた年の年末に一度シミュレーションしておく——これが2年の猶予の使い道です。
ひとつ経過措置があります。2割特例を適用した年の翌年中に簡易課税選択届出書を提出すれば、その提出した年から適用できます。2026年分で2割特例を使った人は、2027年中に出せば2027年分から簡易課税に入れます。この救済は2割特例を使った人限定です。
本則と簡易のどちらが有利かは、経費に占める課税仕入の割合で決まります(2割特例・簡易課税・本則、どれで消費税を計算する?)。外注が多い事業は本則、人件費や自分の労力が中心の事業は簡易が有利になりやすい、というのが大まかな傾向です。
超えた年から実際に納めるまでの約2年を、こう使います。
とくに5つめは効きます。消費税の納期限は3月31日(所得税より2週間遅い)。所得税・住民税・国保・個人事業税と重なる時期に、もう一本大きな支払いが増えます。
課税事業者になって納税額が一定を超えると、翌年から中間申告が始まります。前年の消費税額(国税分)に応じて回数が決まります。
| 前年の消費税額(国税分) | 中間申告の回数 |
|---|---|
| 48万円以下 | なし(任意の中間申告制度あり) |
| 48万円超〜400万円以下 | 年1回 |
| 400万円超〜4,800万円以下 | 年3回 |
| 4,800万円超 | 年11回 |
所得税の予定納税と同じく、前払いです。2年目以降は「3月に確定分、途中に中間分」という資金繰りになると考えておいてください。
かつては、売上1,000万円を超えたタイミングで法人化すると、新設法人には基準期間がないため設立から2期は免税——という組み立てが定番でした(資本金1,000万円未満の場合)。
現在もこの仕組み自体は残っていますが、インボイス登録をするなら意味がありません。登録した時点で課税事業者になるからです。取引先が事業者中心で、インボイスを求められる立場なら、免税リセットは選べません。
法人化を売上の水準で考えるときの全体像は売上いくらから法人化がトク?「800万・1000万の壁」の正体を参照してください。消費税だけで法人化を決めない、というのが要点です。
Q. 今年1,000万円を超えました。今年の分の消費税を納めますか。
納めません。今年が基準期間になるのは2年後です。ただし特定期間(前年1〜6月)の課税売上高と給与等支払額がどちらも1,000万円を超えていた場合は、1年前倒しで課税事業者になります。
Q. 届出書はいつ出しますか。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたことが分かった時点で、消費税課税事業者届出書(基準期間用)を速やかに提出します。出し忘れても課税事業者になる事実は変わらないので、「出していないから免税」ではありません。
Q. 1,000万円を1回超えただけで、翌年は下がりました。
判定は年ごとに行います。2026年が1,100万円で2027年が900万円なら、2028年は課税事業者、2029年は免税事業者に戻ります。行ったり来たりします。
Q. 免税に戻った年に、インボイスの登録はどうなりますか。
登録を続けている限り課税事業者のままです。登録をやめる(取消しを求める)には届出が必要で、効力の発生時期にも決まりがあります。取引先への影響が大きいので、インボイスに登録すべき?判断フローで立場を整理してから決めてください。
Q. 開業1年目・2年目はどうなりますか。
基準期間そのものが存在しないので、原則として免税です(特定期間の判定と、インボイス登録をした場合を除く)。
Q. 消費税は経費になりますか。
税込経理をしている場合、納付した消費税は租税公課として必要経費になります。税抜経理なら預り金の精算なので経費にはなりません。どちらの経理方法を選ぶかは、課税事業者になる年に決めます。
Q. 売上に消費税を上乗せして請求していませんでした。それでも納めるのですか。
納めます。消費税は「請求書に書いたかどうか」ではなく取引が課税取引かどうかで課されます。上乗せしていなければ、受け取った金額の中に消費税が含まれているものとして計算されます。課税事業者になる前に、価格の見直しが必要なのはこのためです。
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